東京地方裁判所 昭和54年(タ)300号 判決 1981年3月30日
原告 上田良江
昭五四(タ)三〇〇号事件(第一事件)
被告 上野安夫 外一名
昭五五(タ)三〇一号事件(第二事件)
被告 上野香
右特別代理人 菅原秋夫
主文
一 昭和五二年一〇月四日付東京都新宿区長に対する届出によつてなされた第二事件被告上野香(代諾者親権者父第一事件被告上野安夫)と第一事件被告上野和子との養子縁組は無効であることを確認する。
二 訴訟費用は第一事件被告両名及び第二事件被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文同旨の判決
二 第二事件被告上野香(以下被告香という。)
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告と第一事件被告上野安夫(以下被告安夫という。)とは、昭和四一年一二月三日、婚姻し、昭和四五年二月五日、被告香が出生した。
しかし、昭和五一年一月六日、被告香の親権者を被告安夫、監護者を原告として協議離婚した。
2 しかし、昭和五二年九月七日に東京家庭裁判所昭和五二年(家)第三、一二〇号の審判により、被告香の親権者を原告に変更する旨が言渡された。
右審判に対し、被告安夫は、東京高等裁判所昭和五二年(ラ)第七三五号(第八民事部)を申立て、目下係属中である。
3 なお、被告安夫と被告上野和子(以下被告和子という。)とは昭和五二年一〇月四日に婚姻した。
4 ところが、右昭和五二年一〇月四日に被告香を被告和子の養子とする旨の縁組届出(以下本件届出という。)が東京都新宿区長に出され、同年一一月一四日に右区長から鹿児島市長に送付された。右養子の代諾者は親権者たる被告安夫となつている。
5 しかし、本件届出による養子縁組(以下本件縁組という。)は無効である。すなわち、
(一) 監護者たる原告の同意等が全くなかつた。養子にするとの話も聞いていない。
(二) そもそも、被告安夫は被告香を強引に原告の手元から連れ去るといつた暴挙のあつたあと、前記東京家庭裁判所における親権者変更の審判が下されたのである。
ところが、右審判で被告安夫が敗訴したため、その約一ヶ月後に、被告安夫の代諾により、被告香を被告和子の養子としてしまつた。
これは原告に対するいやがらせ以外の何物でもない。未成年者の将来等を考えた上での処置では決してない。被告安夫は右審判に対して即時抗告をしたので、右審判は未だ確定しておらず、形式的には被告安夫は未だ未成年者の親権者であるが、しかし、実質的にはすでに親権のない者と同様であり、被告安夫の行為は文字通り暴挙という外はない。
二 被告上野香
請求原因1ないし4の事実はいずれも認める。
第三証拠
一 原告
1 甲第一ないし第三号証
2 証人大山光夫(第一回)
3 乙第一号証の成立は認める。
二 被告上野都
1 乙第一号証
2 証人大山光夫(第二回)
3 甲号各証の成立は認める。
第四被告上野安夫、同上野和子は、公示送達による呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭せず答弁書その他の準備書面を提出しない。
理由
一 その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正な公文書と推定すべき甲第一ないし第三号証、証人大山光夫の証言(第一、二回)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、請求原因1ないし4の事実のほか、原告は、本件縁組をなすについて、何ら知らされておらず、同意を与えたことがないこと、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
二 ところで、父母が離婚し、一方が親権者、他方が監護者と定められた場合においては、子の縁組についての代諾権者は法定代理人である親権者であるが、右縁組が監護者の権限を消滅させること、縁組が子の利益に適うか否かを監護者にも判断させるのが望ましいこと等を考えると、親権者が代諾をなすには監護者の同意を要すると解すべきである。したがつて、本件では被告安夫のなした代諾は、監護者である原告の同意を得ることなくなされているから無効であり、その結果として被告和子と同香との養子縁組も適法な代諾を欠き無効のものというべきである。
三 よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 押切瞳)